30年ぶりに戻ったら (182) — あなたは朝一番のお客様です。

あなたは朝一番のお客様です。

珍しく朝8時台に家を出て野歩き。ウグイスの声を聴きたかったのだ。

途中、三つ葉の無人販売所を通りかかった。若葉の季節らしい生き生きした三つ葉が、数株ごとにプラスチックの袋に入れられて、バケツの水に浸かっている。

美味しそう!一袋100円。
代金箱は小さなカン。コイン一個分が入るぐらいの細長い小さな口が開けてある。そこから100円硬貨を入れるとカラン!
それはこの静かな野の道で、たいそうな音だった。
ああ、きっとわたしは今朝一番のお客なんだ、とその音を聞いて思った。

わたしが朝一番のお客になったことは、前にもあった。
ペルーを旅行していたときのこと、ある日わたしはクスコを早朝に出発して、マチュピチュに行く団体のツアーに参加した。
わたしたち一行の乗ったバスはとある山の村で休憩時間をとった。そこではの市が立っていて、数多くの陶器の屋台が出ていて、わたしたちのような外国人観光客を相手に商いをしていた。
わたしは旅行中、陶器のような割れ物は買わないことに決めていたが、何となく見ているうちに欲しくなった陶器の鉢があった。その屋台では、真面目そうな感じの女の人が子どもを連れて陶器を売っていた。
お金を払って、粗末な紙にくるんだその鉢をわたしが受け取った時、その女の人はわたしを向いて、胸で十字を切った。
え?と思い、つたないスペイン語で尋ねてみた。
「なぜそうするんですか?」
「あなたは、今日の朝一番のお客さんだからです」
彼女は真面目な表情を変えずに答えた。
そうか、この朝わたしは神のお遣いだったのか。そして、この女の人は心の綺麗な人なんだろうなと、なんとなく思った。
これはどちらが良い悪いという話ではありません。世界はこんなもんだということで。

南米原産のリャマ(なぜかChancy村の隣家で飼われていた)

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