人と社会に根付く情報通信技術 ― ITUテレコムワールド2009

もう10月のことになりますが、今年のITUテレコムワールド2009の展示会に三日半たっぷり通い詰めました。色々な人と話し、色々なモノを見てきました。その時に考えたことを、皆さんにもご紹介しようと思います、

原稿は、情報通信技術を人道援助や人材育成に役立てる活動を行うNGO, BHNテレコム 支援協議会のメールマガジン、11月5日号に寄稿したものです。

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10月5日から9日まで、ジュネーブで ITUテレコムワールド2009が開催されました。今回は、私にとっては4度目の訪問でしたが、ITUテレコムワールドは大きく変わりました。

主役交代

今回、大きな展示スペースを占めていたのは、中国、ロシア、インド、韓国等の情報通信企業でした。また、携帯電話会社が出展企業の主流だったことも、通信市場の主役交代を窺わせます。かつては、欧米、日本の主立った電話会社やIT企業が大きなブースを持ち、華やかな展示コーナーや豪華なVIPルームを誇りましたが、今回はそういった企業は姿を消すか、または規模を大幅に縮小したのとは、対照的です。

人と社会に組み込まれた情報通信技術

展示内容にも変化が見られました。前回までと同様、日本、中国、韓国などの、技術力のある企業は、LTE(注参照)等の先端技術を展示していました。その一方で、多数のNGOが、携帯電話を組み入れた社会サービス、例えば、少額バンキング、乳児の健康管理など、を展示していたことは、特記に値すると思います。

こういう社会サービスシステムに使われているのは、必ずしも先端技術ではありません。けれども、パソコンを持たない人、インターネットの届かない地域に住む人の大勢いる発展途上国では、携帯電話は、たとえ最も単純な機能を備えただけのものであっても、生活や仕事に欠かせない道具となっています。このように、携帯電話サービスは、社会の貧富に関わりなく、暮らしのインフラになるまでに成熟したことが見て取れました。

組織を越えた知識と経験の交流の場

会場では、各国の情報通信企業の他、いくつもの国際機関と、その連携する多数のNGOが展示を行っていました。その展示を横断的に見ていくと、各NGO、企業は、それぞれ異なった目的で展示を行っているものの、こういう場で、互いの活動や技術を知り合い、協力すれば、どちらにとっても一層良いシステムが出来るのではないか、と気がつきました。

一例を挙げましょう。世界保健機構(WHO)国際連合教育科学文化機関 (ユネスコ、UNESCO)は、携帯電話を使った乳児や高齢者の健康管理システムを開発し、途上国の農村で活動するNGO、エイズの教育、啓蒙システム、身体しょうがい者の便宜を図ったウェブ・ブックを開発し、広めているNGOなど、多数のNGOに展示スペースを提供していました。

一方、企業に目を転じると、ある放送会社が、個人がパソコンを操作して、自動的にテレビ番組を作るシステムを開発し、展示していました。その両方を見学し、私は全くの門外漢ではありますけれども、そのテレビ番組作成技術を、公衆衛生(public health)活動や、 身体しょうがい者のコミュニケーションに使えるような改良を加えたら、素晴らしいものが出来るのではないかと思いました。

このように、ITUテレコムワールドの場は、共通の目的、分野で情報通信技術に関わる人々が、一堂に集い、組織の枠を越えて、知識や経験を交換し、横に繋がるきっかけを提供する、すばらしい機会でもあります。次回のテレコムは2011年。そこに、BHNの展示もあったら、素晴らしいですね。

BHN欧州代表(スイス・ジュネーブ在住)栗崎  由子

[編集者注] LTE: 携帯電話の高速なデータ通信仕様の一つで、NTTドコモやソフトバンクモバイルなどが採用している第3世代携帯電話方式「W-CDMA」の高速データ通信規格「HSDPA」をさらに進化させたもの。


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