MWC 訪問記−3、人と技術が出会うために
人と技術を出会わせよう
技術を世に出してみると、それが、制作者の予想しなかった、思わぬ需要に応える、ということがあります。
例えば、携帯画面上の文字を大きくする機能。スマートフォンには標準装備ですが、老眼の始まる45歳以上の人々には、文字を読み易くする親切な機能です。これは現在高齢化社会に入りつつある国々では、今後、基本機能となるでしょう。
NTTドコモ社の「らくらくホン」は、シルバー市場向けに的を絞って開発した商品です。この電話機には、耳の遠い方のために、通話者の声を、文字にしてスクリーンに掲示する機能があります。種明かしは、電話が翻訳機能のあるサーバーに繋がっていることですが、これを応用すると、電話を使った自動翻訳も実現できそうですね。近い言語どうし、例えば英語とフランス語相互なら、かなりの精度で自動翻訳できるところまで技術開発が進んでいますから。また、別の例ですが、日本語を勉強している留学生が、通話音声を文字化する機能を使い勉強に役立てたというお話しを、別のところで伺ったこともあります。
同じドコモ社の「イマドコホン」は、もともと、保護者と離れたところにいる子供が何処にいるかわかるよう開発された携帯電話ですが、その位置情報機能の使い方には、携帯電話の発する位置情報をボランティアたちが危険通報のために駆使し、市民ジャーナリズムにまで成長した、ケニアのUshahidiを連想させられます。Ushahidiは、スワヒリ語で「証言」という意味です。もともとは、2008年、ケニアの大統領選挙後に起きた国内騒擾の祭に、ジャーナリストがSMSを使い、国内の危険箇所を自主的に 刻々と通報することから始まった運動でした。
また南アフリカでは、位置情報発信機能を使った野生動物保護のための環境観測システムも開発されています。これも、携帯端末の発信する位置情報が、生物資源保護、環境保護など、広範囲に役立つことを示す良い例だと思います
NTTドコモ社は新技術を発表した数少ない企業の一つでした。中でも、人の目の動きで、イヤホンの音量を調節す
る技術の実演には、多くの見学者が集まりました。病気や事故など、なにかの理由で言葉を発することができなくなった人など、色々な用途で使えるようになると思います。そういう意味で、可能性の大きい、先の楽しみな技術だと思いました。(写真)
その他にも、NTTドコモ社は、気象センサー、太陽光発電式携帯端末など、上質の技術とアプリケーションを幾つも展示していました。人や地域のニーズは多様です。そういう人々と共同で、一つ一つの技術がニーズに合うよう磨き上げていけば、このような技術が人や社会に生きて、更に役立つと思いました。
MWCの広い会場を見て回り、今、技術を持つ側に必要なのは、それを必要とする人々に出会い、個々の目的、情況に合うよう、技術を練り上げていくことではないかと思いました。人と技術とをマッチングをさせる方法は、ネットを使って作る、また展示会で技術の需要者と供給者が会するなど、色々あります。けれども、人と技術の真の出会いを可能にするのは、技術を持つ人、技術を理解する人が、受益者(と思われる人々)の現場に出て行くことではないでしょうか。 その場面で、双方の感性と創造性とが触媒になり、技術が人や社会に充分役立つものになるのです。
(この記事は平成22年5月10日発行の通信興業新聞に記載されました。)