30年ぶりに戻ったら (115) — おくすり手帳で日本の仲間入り
【 街の医療機関の隙間を埋める紙】
「(それを)持っていません」と言ったとき、その薬局の人にちょっと怪訝な顔をされた。
そして初めて、おくすり手帳を作って貰った。
これでわたしも日本の医療システムの中に入った!なんだか仲間入りのパスポートを貰った気分だった。😀
家庭医制度のない日本で、このおくすり手帳は私たちにとって相当に重要な役割を担っていると見た。この小さな紙の手帳が、わたしがこれからお世話になるかもしれない医者や薬局など、医療に関わる多くの人々が横の連携を作るためにかなり役立つからだ。
私の住んだフランスやスイスにはこういう手帳は無かった。
それらの国には家庭医の制度があり、わたしの処方される薬や診療に行く専門医の情報を家庭医が全て持っていた。
例えば、わたしが皮膚に何か問題を持ったとする。わたしはまずかかりつけのお医者に行く。その人がわたしの家庭医だ。
彼女はわたしを診察し、彼女のネットワークから皮膚科の専門医を紹介してくれる。時には大学病院の専門医に紹介状を書いてくれることもある。(わたしの家庭医はマリオン先生という女医だった)
専門医はわたしを診察するとその結果をマリオン先生にレターで送る。
わたしはジュネーブに住んだ二十数年間、誠実で英語を話す(ここ大事!)マリオン先生にお世話になり続けた。何人もの専門医や、X線写真などの検査機関を紹介された。こうしてわたしの健康歴は彼女のファイルに蓄積された。
家庭医はあなたの健康のコントロールタワーなのだ。
日本に家庭医制度は無い。だから患者は、専門医をネットなどで調べ、自分で選んで診察して貰いに行く。
初めわたしは、なんて危うい制度なんだろうと思った。医学知識の無い素人の患者が、自分に適した医者を探して選ぶなんて。これは一か八かの博打みたいだ。
だが、母のおくすり手帳の使い方を横目で見ていて気がついた。
この小さな紙が、かかりつけのお医者、わたしの選ぶ専門医、それぞれの医者の近くにある薬局の薬剤師という専門家同士を結び付けている。
わたしはテクノロジー大国日本と思っていたが、医療現場の横の連携では紙の手帳が重要な情報共有手段になっている!意外だが、現実とは案外そういうものかもしれない。🤔
おくすり手帳は紙のページに薬品のシールを貼るというローテクの仕組みだが、結構良く機能しているようだ。
そしてわたしはめでたく日本の医療制度にまた一歩深く足を踏み入れた。
これはどちらが良い悪いという話ではありません。世界はこんなもんだということで。
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学びのポイント:日本にローテクで成り立っている仕組みは結構多い。ステレオタイプを外すと、物事のおかしみが見えてくる、、こともある。
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