30年ぶりに戻ったら (112) — ものを包む話、つづき
【ものを包む、または包まない人々の風土記】
前回は、日本のなんでも丁寧に(厳重に)プラスチックで包みまくる習慣について書いた。
そういう国から来た私だ、最初に住んだ外国、カナダでは度肝を抜かれた。(ただしこれはもう30年以上前のことだ。今では変わっているかも知れない。)
この国では、買ったものはなんでも茶色の紙袋にポイと入れ、袋の口を両手でぐしゃっと閉じて(閉じたつもりになって)終わり。
最初に行った店でその粗野なものの包み方に驚かされ、きっとここだけがこういうお粗末な包装をするんだろうと思った。そのやり方がこの国では当たり前の習慣だと気付くまでに時間はかからなかった。
あーーなんて気楽なんだろう!
私はカナダの、いかにも若い国らしい大らかさが好きになった。
最も驚かされたのはアイルランドはダブリンのとある郊外の小さなスーパーマーケットに行ったとき。その日私は夜遅く宿にした大学の寮に到着。お腹が空いていたので、事務所の人に教えられたとおり街のスーパーに夕食になる食料を買いに行った。
見るとロールパンのようなパンが、段ボール箱にゴロゴロ入っている。それを二つ手にして、パンの袋に入れようとしたがそれらしいものは何もない。このスーパーにはパン売り場にパンを入れる袋がなかったのだ。スイスのスーパーにはどこでも袋があったが、まあいいか。
結局裸のパン二個をカゴに入れ、レジまで持って行く。レジの台に裸の丸っこいパンを二つ転がす。レジの女性は平然と料金を機械に入力する。
アイルランドとはここまで素朴かと舌を巻いた。
話は逸れるが、空港の荷物検査の人々が鼻歌を歌いながら、軽快に楽しそうに仕事していたのも、ダブリンだけだった。
アイルランドのそういう素朴さが好きになった。
フランスでは好きだった包み方が二つある。
一つは、パン屋でショートケーキを一つ買ったときの包み方。ケーキを厚紙の台に乗せる。それを四角い包装紙でくるくるっと包み、最後にパパッと手早く紐を掛け、その先端を指が一本ぐらい入る大きさのわっかに結んで、できあがり!何度見ても曽於包み方の妙に見惚れた。もちろん、まねなどできない。
あれはなんという包み方なんだろう?
包装紙もケーキを乗せる台紙も簡単なものだけれど、それがこんな素敵な包みになってしまう、そのセンスが好きだった。
(この包み方は、パケ・モンテPacquet Montéというのだそうだ。ここまで調べ上げてしまう日本の人って凄い!
https://www.youtube.com/watch?v=Oz-V346HzUg)
もう一つは、包みではないのだが、シブレット(英語でチャイブ、ネギの一種。香りを楽しむ)の束ね方だ。これは私が毎週行ったパリのあるマルシェで見たもの。なんということはない、細長い葉っぱでシブレットの束を縛るのだ。葉っぱで葉っぱを縛る。それをそのままポンと店先に出して売る。この素朴さが、なんだか好きだった。
これはどちらが良い悪いという話ではありません。世界はこんなもんだということで。
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学びのポイント: ものの包み方が簡素だからって、気持ちまでが雑ということはない。
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