30年ぶりに戻ったら (144) — パリにとっての映画
【手軽で気楽、映画も人も】
かなり手軽に行ける場所に映画館のあることに気がついた。パラサイト(2020年カンヌ映画祭 Palm d’Or受賞、要するに優勝)という映画を観たくて上映館を探したのだ。
30年間日本を留守にしている間に、ニンジンやキャベツの畑だった地域が大ニュータウンになっていた。その最寄り駅にピッタリくっついてショッピングモールがあり、そこに大きな映画館が入っていた!
30年の変化、おそろしや!
今まで、というか30年前までは、わたしにとって映画を見に行くとは、往復3-4時間かけて東京に行くということだった。1日仕事である。
それが今ではヒョイと映画を見に行けるようになっていたのだ!
Door to Doorで35分。今までこんなに映画館が身近だった事はなかった。
興味を持った映画を、ヒョイと気軽に観に行けるーーわたしはそんな環境をいつも羨ましく思っていた。
パリはそんな街だった。
最近の作品から古い作品まで、あらゆる時代のあらゆるジャンルの映画がいつもどこかに掛かっていた。例えばパリに来て間もない頃、活きの良い日本語を耳に入れたくて、小津安二郎の映画を見に行った事がある。たまたま日本映画週間みたいなイベントで特集されていたのだ。
それが私に取って活きの良い日本語だったかどうかはわからないが、考え込まなくても、ボンヤリ聴いていてもわかるという意味で、気楽な言葉、つまりリラックスできたのだ。
パリでは映画の料金も安かった。音楽のコンサートよりもずっと安く、学生や庶民の手頃な娯楽だった。
わたしは映画を多く観たというわけでは無いけれど、時々友人に誘われてサンジェルマン界隈の映画館に行った。北野武や、もののけ姫(Princess Mononoke)を観たのもこの頃だ。
フランス人の友人たちの習慣は面白かった。
「○○を観に行こうよ」、と互いに声を掛け合う。
4-5人集まる。
映画館前に集合して一緒に切符を買い、入場する。
映画を見終わり外に出る。
カフェに行ってワイン一杯でお喋りを楽しむ数人あり、
映画の後で「じゃーね」といって帰って行く数人あり。
まったく三々五々なのだ。
なんでわざわざ声を掛け合って集まったのかな?と思ったものだった。
でもまあ、それが気楽で良いのだ、この国は。
これはどちらが良い悪いという話ではありません。世界はこんなもんだということで。
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学びのポイント: 身近なところに手頃な値段で根付く質の高い文化、これこそ文化都市のありようなのだ、きっと。
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