ディジタルの世界で働く女性を、ソーシャルメディアで輝かせよう! ーー欧州ICT社会読み説き術 (27)
日本でもヨーロッパでも、ディジタル生活がすっかり浸透した割りには、ICTのかかわる場面で、女性の存在感は依然として薄い。大まかな数値だが、ICTをテーマにしたシンポジウムやコンファランスのスピーカのうち、女性は5%、ICT産業全体をみても、そこで働く女性は20%という。
その現状を変えたい、という思いを抱き、実行に移した女性がいる。ジュネーブでディジタルマーケターとして働く、タイサ・シャルリエさんだ。
シャルリエさんは、2014年1月に、「Women in Digital Switzerland」(ウーマン・イン・ディジタル・スイス、WDS)というグループを、リンクトインの中に立ち上げた。このグループは、最初は全く個人のプロジェクトだったので、同じマーケティング仲間の20数人の女性に、メールで知らせただけだった。それが、たった四週間で120人の参加者が集うグループに急成長した。宣伝しなくても、口コミだけでこれだけ集まったのである。
何故ディジタルビジネスで働く女性たちは、Women in Digital Switzerlandに強い関心を持つのか?そこにある思いとは?
今回は、女性という切り口から、ICT社会に迫ってみた。
女性の意見を社会に
タイサ・シャルリエさんは、明るくダイナミックな広報ウーマン。宮本武蔵の「五輪の書」をフランス語で読んだと言って、筆者を驚かせた。彼女は、ディジタルマーケティングを専門にしている。(註:ディジタルマーケティングとは、SNSなど、ディジタルメディアを使った、商品、サービス、ブランドの販売促進手法の総称。企業アカウントのフェースブックを使ったコミュニティーマネジメント、企業HPのブログの執筆など、態様は多岐に亘る。)
シャルリエさんが、自分の業界で女性の発言力を高めなければいけない、という問題意識を持った直接のきっかけは、高額な保育費用だった。彼女はシングルマザー。子どもを保育園に預けて働きに出ようとしたが、その費用に彼女の給料を殆ど持って行かれることを知った。「これでは、女性は外で働けない!女性の意見を社会にもっと出して行かなければ。」そこで、まず自分の仕事であるディジタルマーケティングの分野で働く女性同士を繋げようと考えた。(註、スイスの社会制度には、女性が常に家にいることを前提にして作られているものが散見される。高額な保育費用はその一例だ。保育は例外という考え方である。)
スイスでもICTを利用するビジネスのうち、ディジタルマーケティングに携わる女性の数は多い。コミュニティーマネジメントなど、在宅で働ける職種のあることはその大きな理由だ。家で働けるなら、育児をしながら仕事を続けられる。そういう女性たちを繋げる個人的な繋がりはあったが、個人の交遊の範囲を超えてより大勢を繋ぐ仕組み、それを可能にする場は無かった。
意見交換を通じ、働く女性が支え合う
スイス社会には、多国籍を認めるなど先進的な面もある反面、保守性も根強い。女性が働くことや、シングルマザーに批判的な意見を持つ人も多い。そういう目に晒されながら働く女性が、互いに支え合う仕組みを提供するWDSは、互いに孤立していた女性のニーズに見事に的中した。
WDSグループサイトには、さまざまな経験や意見、興味深いイベントなどが載せられるようになった。「読まれるブログを書くには?」「3月7日はスイス女性の給与“平等”の日」「女性リーダーが“いばらないリーダーシップ”を育てる方法」などである。
シャルリエさんは、「このように、経験やアイデアをシェアすることから始め、それが参加者同士を刺激し合う(インスパイア)ようになって欲しい。それが育って、女性たちが力づけ合い、自信を持つようになっていって欲しい」と思っている。そうして、「女性たちに自信を持って対外的に発言する力を身につけて欲しい」と。
WDSで使う言語は英語だ。シャルリエさんがフランス語圏のジュネーブで活動しているためもあり、今のところ参加者の多くはフランス語人である。けれども、広くスイス全体で言語の壁を超えて情報交換するために、彼女はあえて英語のサイトとした。英語はスイスの言語ではないが、必修とする学校が多いため、若手マーケターには英語を読み書きする人は多い。こうして彼女は、英語を介して、ドイツ語、イタリア語を母語とするスイスの女性たちにも、共感の輪を拡げようと思っている。
これは恩返し
参加メンバーは、今や250人に迫ろうとしているWSDだが(原稿執筆時点)、グループを大きくすることは、私の目的ではない、とシャルリエさんは言う。「多くの人々のおかげで、私は何人もの素晴らしい人々に出会ってきた。今度はWDSを通じて、女性たちが素晴らしい人々に出会う機会を提供したい。」彼女はまた、「女性の能力を活用することは、企業の社会責任(CSR)でもある。」とも言う。女性が能力を発揮するよう育てることは、社会への貢献でもある、と。
日本でも、ネットを活用して女性たちが連携し、互いを支援しあう仕組みが育っているようだ。例えば、最近筆者は、「営業部女子課」 (http://www.eigyobu-joshika.jp)というサイトを知り、頼もしく思った。ソーシャルメディアは、相談相手が身近にいない人々を繋げ、互いに学ぶ機会を提供できる。折しも安倍首相は、日本経済の成長に女性の能力は不可欠と言っている。ソーシャルメディアを利用したこのようなつながりは、これからも拡がって行くだろう。
はじめまして。
先日、ご著書を拝読いたしました。
フリーで働いて10年余ですが、
50代も半ばになって、折々にあれこれ思いあぐねていた時、
栗崎様のご著書には本当に励ましていただきました。
人がしてもらいたいと思う仕事をする。
これからの働き方の基礎として、キモに命じようと思います。
ユーモアあふれる優しいメッセージの数々、どうもありがとうございます!
Mayumiさま、
拙著をお読みくださったばかりか、コメントまで書いてくださってありがとうございます。お忙しかったでしょうに。
「人があなたにしてもらいたいことをせよ」は、私にとっても、人生との取り組み方を180°変えた一言でした。
人生の山坂を越え、半世紀生きてきた自信が、ともすると慢心をも呼び起こす、私の50代です。私もまた、この一言を下さったT先輩のその時の表情を思い出しながら、時々背筋を正しています。
楽しき50代、一緒に体を張って、これからの人生を歩いて参りましょう。